
2025-06-26
犬の認知症|早期発見とご家庭でできる暮らしの工夫を獣医師が解説

大田区、下丸子、矢口を中心に幅広い動物の診療を行う「まるこ未来動物病院」です。
人間と同じように、犬も高齢になるにつれて認知症のような症状を示すことがあります。
近年は飼育環境や医療の向上により長寿の犬が増え「夜に落ち着かなくなる」「名前を呼んでも反応しない」といった行動変化に悩む飼い主様からのご相談が増えています。
今回は、犬の認知症について、よくある症状や見分け方、治療の選択肢、そしてご家庭でできるケアの工夫まで、獣医師の視点で詳しく解説します。
<好発年齢>
一般的に、7〜8歳ごろからリスクが高まり、10歳を過ぎると症状が出始める犬が多くなります。年齢とともに少しずつ変化が現れることが多いため、日常の様子をよく観察することが大切です。
<間違われやすい病気に注意>
認知症に似た行動は、たとえば甲状腺機能の低下などの内分泌疾患や、脳腫瘍、視力や聴力の低下など、ほかの病気が原因となっている場合もあります。正しく見極めるには、獣医師による検査が必要です。
こんな行動が見られたら要注意|認知症のサイン
犬の認知症では、日常生活の中で少しずつ行動の変化が見られるようになります。こうした変化を早期に発見し、適切な対応につなげるための行動評価ツールとして、「DISHAAスコア表」という指標が活用されています。
<DISHAAスコア表とは?>
DISHAAスコア表は、犬の認知症の進行度を把握するために、6つの行動カテゴリーに注目して変化を評価するチェックリストです。各カテゴリーの頭文字をとって「DISHAA」と呼ばれています。
・Disorientation:方向感覚の喪失
例)家具にぶつかる、部屋の中で迷子になる
・Interaction changes:社会的な関わりの変化
例)飼い主様とのふれあいに興味を示さなくなる
・Sleep-wake cycle:睡眠サイクルの変化
例)夜間の徘徊、昼間に長時間眠る
・House soiling:排泄の失敗
例)トイレの場所を間違える、失禁する
・Activity changes:活動量の変化
例)遊ばなくなる、ぼーっとする時間が増える
・Anxiety:不安・神経質な行動
例)無意味に吠える、落ち着きがなくなる
<スコア表の使い方と受診のすすめ>
このスコア表は、愛犬の日常的な行動の変化を記録することで、認知機能の低下を客観的に把握する手助けになります。「当てはまる項目が多い」「変化の程度が強い」と感じた場合は、認知症が進行している疑いがあります。
ただし、このスコア表はあくまで目安であり、認知症かどうかを自己判断するものではありません。他の病気が隠れているケースもあるため、気になる行動が続くようであれば、獣医師による専門的な診察を受けることが大切です。
<診断の流れ>
まずは、飼い主様からの丁寧なヒアリング(問診)が大切な手がかりとなります。
「いつ頃から」「どんな様子が見られるか」「困っていること」などをうかがい、必要に応じて以下のような検査を行います。
・神経学的検査:反応や動きの確認
・血液検査:体の内側の状態をチェック
・画像検査(MRIなど):脳の状態を詳しく調べる
これらの検査を通じて、認知症と似た症状を起こすほかの病気との区別(鑑別)を進めます。
たとえば、クッシング症候群や甲状腺機能低下症、脳腫瘍なども、認知症とよく似た行動の変化が見られるため、獣医師による慎重な判断が必要です。
<治療方法の一例>
現時点では完治させる方法はありませんが、次のような手段で進行を遅らせたり、症状をやわらげたりすることが期待できます。
・薬物療法
脳の血流を良くする薬や、不安をやわらげる薬、夜の睡眠をサポートする薬などを使うことがあります。
・栄養補助食品(サプリメント)
オメガ3脂肪酸や抗酸化成分、ビタミン類などを含むサプリメントは、神経を守るはたらきがあるといわれています。
・生活環境の見直し
日課をなるべく一定に保ちつつ、散歩や知育トイを使った遊びなど、適度な刺激を取り入れることも重要です。
当院では、愛犬の症状だけでなく、飼い主様のご家庭の状況もふまえて、できるだけ無理のないケアや治療方針をご提案しています。
<ご家庭でできるサポート例>
・家具の配置はなるべく変えない
環境の変化は、認知症の犬にとって混乱のもとになります。通り道の障害物を片付けたり、家具の位置を固定したりして、安心して歩ける空間を整えてあげましょう。
・段差の解消にスロープやマットを活用する
足腰が弱くなる高齢の犬にとって、段差は転倒やケガの原因になります。スロープや滑り止めマットを設置することで、より安全に移動できるようにサポートしてあげましょう。
・夜間の徘徊にはナイトライトやペットフェンスを
夜間に徘徊する犬は、暗がりの中で物にぶつかったり、転倒したりするリスクがあります。やわらかな照明や、危険な場所を区切るフェンスを設けると、夜間の安心につながります。
<飼い主様の負担を軽くする工夫>
・見守りカメラの活用
「目が離せず外出できない…」というお悩みを軽減する手段として、見守りカメラは有効です。外出先からでもスマートフォンで愛犬の様子を確認でき、もしもの時にすぐ対応できる安心感があります。
・防水シートやおむつなど介護用品の導入
排泄トラブルへの対応として、防水シートやおむつを使うと掃除の手間が減り、飼い主様の負担も軽くなります。最近はサイズや機能に配慮された製品も多く、愛犬に合ったものを選びやすくなっています。
・家族や周囲と協力する
介護は一人で抱え込まないことが大切です。ご家族やペットシッターなど、信頼できる人と連携しながら、無理のない体制を整えましょう。
当院では、定期的なフォローアップ診察を通して、ご家庭での困りごとやケア方法についても、できる限り具体的にアドバイスをさせていただいております。どんな小さなことでも、どうぞ気兼ねなくご相談ください。
当院では、DISHAAスコア表を活用した行動評価に加え、愛犬と飼い主様の暮らしに寄り添った治療とケアをご提案しています。もし気になる行動が見られたら、「年のせいかな」と片付けずに、ぜひ一度ご相談ください。
東京都大田区下丸子で、犬・猫・フェレット・ウサギ・小動物・鳥・魚まで、幅広い動物の診療を行っている【まるこ未来動物病院】
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人間と同じように、犬も高齢になるにつれて認知症のような症状を示すことがあります。
近年は飼育環境や医療の向上により長寿の犬が増え「夜に落ち着かなくなる」「名前を呼んでも反応しない」といった行動変化に悩む飼い主様からのご相談が増えています。
今回は、犬の認知症について、よくある症状や見分け方、治療の選択肢、そしてご家庭でできるケアの工夫まで、獣医師の視点で詳しく解説します。
犬の認知症とは?
犬の認知症(正式には「認知機能不全症候群」)とは、加齢にともなって脳の働きが少しずつ低下し、認知や行動に変化が現れる病気です。<好発年齢>
一般的に、7〜8歳ごろからリスクが高まり、10歳を過ぎると症状が出始める犬が多くなります。年齢とともに少しずつ変化が現れることが多いため、日常の様子をよく観察することが大切です。
<間違われやすい病気に注意>
認知症に似た行動は、たとえば甲状腺機能の低下などの内分泌疾患や、脳腫瘍、視力や聴力の低下など、ほかの病気が原因となっている場合もあります。正しく見極めるには、獣医師による検査が必要です。
こんな行動が見られたら要注意|認知症のサイン
犬の認知症では、日常生活の中で少しずつ行動の変化が見られるようになります。こうした変化を早期に発見し、適切な対応につなげるための行動評価ツールとして、「DISHAAスコア表」という指標が活用されています。
<DISHAAスコア表とは?>
DISHAAスコア表は、犬の認知症の進行度を把握するために、6つの行動カテゴリーに注目して変化を評価するチェックリストです。各カテゴリーの頭文字をとって「DISHAA」と呼ばれています。
・Disorientation:方向感覚の喪失
例)家具にぶつかる、部屋の中で迷子になる
・Interaction changes:社会的な関わりの変化
例)飼い主様とのふれあいに興味を示さなくなる
・Sleep-wake cycle:睡眠サイクルの変化
例)夜間の徘徊、昼間に長時間眠る
・House soiling:排泄の失敗
例)トイレの場所を間違える、失禁する
・Activity changes:活動量の変化
例)遊ばなくなる、ぼーっとする時間が増える
・Anxiety:不安・神経質な行動
例)無意味に吠える、落ち着きがなくなる
<スコア表の使い方と受診のすすめ>
このスコア表は、愛犬の日常的な行動の変化を記録することで、認知機能の低下を客観的に把握する手助けになります。「当てはまる項目が多い」「変化の程度が強い」と感じた場合は、認知症が進行している疑いがあります。
ただし、このスコア表はあくまで目安であり、認知症かどうかを自己判断するものではありません。他の病気が隠れているケースもあるため、気になる行動が続くようであれば、獣医師による専門的な診察を受けることが大切です。
診断と治療の選択肢
犬の認知症は、今のところ根本的に治すことは難しい病気ですが、早めに気づいて適切なサポートを行うことで、症状の進行をゆるやかにし、日常生活の負担を減らすことができます。<診断の流れ>
まずは、飼い主様からの丁寧なヒアリング(問診)が大切な手がかりとなります。
「いつ頃から」「どんな様子が見られるか」「困っていること」などをうかがい、必要に応じて以下のような検査を行います。
・神経学的検査:反応や動きの確認
・血液検査:体の内側の状態をチェック
・画像検査(MRIなど):脳の状態を詳しく調べる
これらの検査を通じて、認知症と似た症状を起こすほかの病気との区別(鑑別)を進めます。
たとえば、クッシング症候群や甲状腺機能低下症、脳腫瘍なども、認知症とよく似た行動の変化が見られるため、獣医師による慎重な判断が必要です。
<治療方法の一例>
現時点では完治させる方法はありませんが、次のような手段で進行を遅らせたり、症状をやわらげたりすることが期待できます。
・薬物療法
脳の血流を良くする薬や、不安をやわらげる薬、夜の睡眠をサポートする薬などを使うことがあります。
・栄養補助食品(サプリメント)
オメガ3脂肪酸や抗酸化成分、ビタミン類などを含むサプリメントは、神経を守るはたらきがあるといわれています。
・生活環境の見直し
日課をなるべく一定に保ちつつ、散歩や知育トイを使った遊びなど、適度な刺激を取り入れることも重要です。
当院では、愛犬の症状だけでなく、飼い主様のご家庭の状況もふまえて、できるだけ無理のないケアや治療方針をご提案しています。
ご家庭でできるケアと暮らしの工夫
犬の認知症は、診断されたからといってすぐに特別な介護が必要になるとは限りません。日々の暮らしの中に小さな工夫を取り入れるだけでも、愛犬の混乱や不安をやわらげ、飼い主様の負担を軽くすることができます。ここでは、当院でもよくご相談をいただく、ご家庭でのサポート方法をご紹介します。<ご家庭でできるサポート例>
・家具の配置はなるべく変えない
環境の変化は、認知症の犬にとって混乱のもとになります。通り道の障害物を片付けたり、家具の位置を固定したりして、安心して歩ける空間を整えてあげましょう。
・段差の解消にスロープやマットを活用する
足腰が弱くなる高齢の犬にとって、段差は転倒やケガの原因になります。スロープや滑り止めマットを設置することで、より安全に移動できるようにサポートしてあげましょう。
・夜間の徘徊にはナイトライトやペットフェンスを
夜間に徘徊する犬は、暗がりの中で物にぶつかったり、転倒したりするリスクがあります。やわらかな照明や、危険な場所を区切るフェンスを設けると、夜間の安心につながります。
<飼い主様の負担を軽くする工夫>
・見守りカメラの活用
「目が離せず外出できない…」というお悩みを軽減する手段として、見守りカメラは有効です。外出先からでもスマートフォンで愛犬の様子を確認でき、もしもの時にすぐ対応できる安心感があります。
・防水シートやおむつなど介護用品の導入
排泄トラブルへの対応として、防水シートやおむつを使うと掃除の手間が減り、飼い主様の負担も軽くなります。最近はサイズや機能に配慮された製品も多く、愛犬に合ったものを選びやすくなっています。
・家族や周囲と協力する
介護は一人で抱え込まないことが大切です。ご家族やペットシッターなど、信頼できる人と連携しながら、無理のない体制を整えましょう。
当院では、定期的なフォローアップ診察を通して、ご家庭での困りごとやケア方法についても、できる限り具体的にアドバイスをさせていただいております。どんな小さなことでも、どうぞ気兼ねなくご相談ください。
まとめ
犬の認知症は、加齢とともに起こりやすい変化のひとつです。大切なのは「早く気づき、できることから始めること」。当院では、DISHAAスコア表を活用した行動評価に加え、愛犬と飼い主様の暮らしに寄り添った治療とケアをご提案しています。もし気になる行動が見られたら、「年のせいかな」と片付けずに、ぜひ一度ご相談ください。
東京都大田区下丸子で、犬・猫・フェレット・ウサギ・小動物・鳥・魚まで、幅広い動物の診療を行っている【まるこ未来動物病院】
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▶ よくあるご質問(FAQ)を読む